Why ひとびと ?

200年受け継ぎ、進化し続けるために

Why ひとびと ? ヤマニ果樹農園 千葉県 果物 農業

2024.11.15

PROFILE

板橋 亮・大輔

ヤマニ果樹農園

千葉県市川市大野町で200年にわたり受け継がれてきた梨農園。9代目として栽培方法を受け継ぎ自然のサイクルを生かした減農薬栽培を担う兄・亮さん。ホテルリゾートで地域の魅力開発や発信などに携わった後、「幼い頃から見てきた原風景をできるだけ長く維持していきたい 」と就農を決心した弟・大輔さん。直売で100%売り切れるほど根強いファンが多いヤマニ果樹農園の梨の味を守りながら、さらなる進化を続けている。

はじまりは江戸後期、ヤマニ果樹農園が紡いできた200年

およそ200年に渡りその地で代々受け継がれてきた梨農園は、7代目の祖父様の代に地域の共同選果組合から独立しおよそ35年が経ちます。新しいことにチャレンジすることが好きだったという祖父様が、代々続く日本梨の他に葡萄やキウイフルーツ、洋ナシの栽培も始められ今では梨にも負けないほど人気だそうです。8代目のお父様の代には、環境を守り人々が安心安全に食べられる梨づくりを目指し、減農薬・減化学肥料栽培(特別栽培農産物)を始め、試行錯誤の結果2004年に千葉県内の果樹生産者として初の「ちばエコ農産物」の認証を受けました。

かつて周辺は田んぼだらけだったという近隣は時代の流れと共に住宅化が進み、都市近郊型の農業として地元地域との共存共栄を図りながら弛まぬ努力で伝統の味と食の安全、環境を守り続けています。
今の農園の運営を担う板橋さんご兄弟にお話を伺いました。

9代目を受け継ぐ亮さんと弟の大輔さんについて

兄・亮さんは千葉大学園芸学部を卒業後、千葉県農林総合研究センターでの研修を経て2012年に就農されました。梨の若木の育成やシャインマスカットの栽培や、長年愛されてきた農園の大切なお客様情報の管理など幅広く担当する、正にヤマニ果樹農園の心臓部なのです。

ご本人が次期9代目として農園を受け継ぐ覚悟が定まったのは高校時代だとか。「高校生であった当時、誰かが引き受けなければならないことだという認識でした。」そして、「兄弟3人の中で一番適性があるのだろうとも感じていましたが、自分の人生の早い段階で将来を決めることについては、高校生ながら寂しさもありました。」そこから農学系の大学に進学された亮さんですが、「今となれば目的のある学生生活を過ごせたことは良かったと思います。」
学生時代は果樹研究室で梨の調査に熱中して取り組んでいたそうで、「一年の後半はほとんど研究室で過ごしていました。まだ誰も知らないことをデータや資料から推察したり検証するプロセスは今でも役にたっています。」と今現在の農園での栽培にとって重要な礎となったことを明かしてくれました。「今でも大学で栽培のアドバイスを聞いたり、卒業生のつながりから知見を得たり良い刺激になっています。」

現在、亮さんは8代目であるお父様から次期9代目として、少しずつ橋渡しをしてもらっている中間地点だとか、「父もまだまだ元気ですし、今後も活躍してほしいと思っています。代替わりによって一気に自分のカラーを出して経営内容を刷新していきたいとも考えていません。父が営農してきた環境や時代背景を通して見る景色と、私が見る景色は、例え同じものを見ても異なっているだろうし、経営の文脈にも配慮しながら価値観を擦り合わせ少しずつアップデートしていくようにしています。」

「過去への配慮を大切に、決してそれに縛られず敬意を忘れずに一歩ずつ進めていくことを心がけています。」と想いを語ってくれました。全国の農家の多くは家族経営ですが、それぞれが情熱を持って営農しているだけに親子で対立する構図がしばしばあるのも現実なのだとか。時には相手の目線にも立ちながら時代に合わせた試行錯誤を模索する姿勢が、200年にわたって農園が続いている秘訣なのかもしれません。
弟・大輔さんは上智大学法学部を卒業後、星野リゾートに入社し8年間ソムリエとして従事しつつ地域の魅力開発や発信に携わってきたそうです。あるとき、兄の亮さんが「梨は自分の代で終わりかな」と呟いたことをきっかけに、居ても立っても居られなくなり故郷に戻って就農されることを決意。

「自分が幼い頃から見てきた原風景をできるだけ長く維持していきたい」そんな想いを胸に農作業を行う傍ら、SNSでの発信や規格外梨の活用方法など外部と連携する取り組みも積極的に行い時代に合わせた農園の営みに邁進されています。
前職では地域の魅力開発に携わる中で、その地域の特性や名産品を今までにない発想や組み合わせでいかに魅力的に伝えられるかを常々考えていたという大輔さん。「就農して実家に戻ってきた今もその姿勢は変わらず、ヤマニ果樹農園をいかに多くの方に知っていただき魅力的に感じていただけるかを模索し続けています。

20代30代の方々にもっとフルーツを身近に感じてもらいお客様になってもらいたいと話す大輔さん。前職時代の仲間には若い世代が多く、新しいプロモーションやデザインを導入する際には相談し意見を募ったり、イラスト作成や撮影の協力を仰ぐことも多いのだとか。前職で培ったご経験や人間関係が大きな力を発揮しているようです。

100%直売で完売してしまうほど根強いファンが多い農園の魅力とは

熱烈な人気を誇る日本梨の他、巨峰、シャインマスカット、キウイフルーツ(アボット・香緑・ヘイワード)、洋ナシ(パスクラサン、ル・レクチェ、チャンピオン)が栽培されています。

およそ15品種に及ぶ梨はなんと毎年35トンもの量が収獲されているそうです。その次に多く栽培されているのがキウイフルーツです。夏場の新梢管理が間に合わないほど生育旺盛だということですが、比較的梨と作業がかぶらずに平準化をはかれるのが魅力だとも仰っています。
巨峰など紫系のブドウは高温による着色不良が深刻になってきているそうで、近年の目まぐるしい気候変動により昼夜の寒暖差がないことが原因なんだとか。「摘粒など手間と時間がかかる作業も多く、完全露地なので病気を防ぐのが難しい。梨の収穫期間中は、伸びた枝の管理が間に合わず茂りすぎてしまうことも課題です。」
そして、11月には洋ナシも販売されます。10月頃収獲され丁寧に追熟されたものが直売所に並びます。

『一年を通して何度もお客さんが来てくれた方が作る側も買う側も嬉しいべ。』

色々な品目を栽培している背景には、7代目であるお祖父様のこの言葉の影響が大きいそうです。「単純に生産性だけを高めるなら、一つの品目に絞った方が良いに決まってるのですが、祖父のそういった想いもあり今の栽培スタイルが確立しました。」大輔さんはそのように話します。

1シーズン、1イノベーション

亮さん大輔さんのお二人が担う農園はどのような将来が待っていますでしょうか。「既存の農家の枠組みに囚われず、毎年新たな挑戦を重ねたいですね。少しずつ進化していく様子をお客様に見守っていただければこれ以上嬉しいことはありません。」

その上で今後の課題についても教えてくれました。「若い世代にとってフルーツを贈ることは敷居が高く身近なものでなくなっているのではないかと感じています。SNSなどで自分たちの栽培の様子や想いを発信することで、商品に共感してもらい、大切な方への贈り物として選択肢に挙がるような存在になれたらと考えています。」

「今後、よりお手頃な価格の小型サイズの箱を導入するなどお客様のニーズに合わせた提案をしていきたいです。」
「私たちの農園や農産物を魅力に感じ、買っていただいた人たちに支えられていることには感謝しかありません。地球温暖化の影響でどこまでできるかわかりませんが、体と栽培環境がもつかぎりは丁寧に頑張っていきたいと思います。」

おわりに

Why Juice?では梨ジュースの他にどのようなことがご一緒できるでしょうか。「末永くごひいきに」「今回、規格外梨をジュースにしていただきましたが、アイスも商品として作られていらっしゃるようなので、梨のシャーベットはいかがでしょうか?そのまま凍らせただけの梨を削って作る、削り梨なんかもできないでしょうか」沢山の梨の可能性とアイディアを語ってくれた板橋さんご兄弟。
わたしたちWhy Juice?の役割は、どれも等しく丹精込めてつくられたその果実一つ一つに『価値と新しい場』を与える商品化を行うことによって農家さんをサポートしつつ、生産背景や人々が食するものへの安心安全と、環境保全に勤しむひとびとの想いを世に伝えていくことだと改めて感じた取材となりました。
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