犬飼 賢さんのこと
長野県松本市で16年に渡りりんごを育てる犬飼さん。りんご畑は北アルプスをのぞみ、周りには田園風景が広がっています。今回は、Why Juice ?チームで毎年訪れている収穫の際に、お話を伺いました。
「ここは以前は荒れ果てた休耕田でした。背丈くらいの雑草だらけで。それを4、5人の人の手で全部抜いて耕して、やっとこうなったんです」。農業大学で果樹について学んだのち、農業用資材を扱う企業に勤めていた犬飼さん。「いずれは実家を継ぐかなと思ってて、早い方がいいなと」。そして、8年ほどキャリアを積んだタイミングで就農。周りの手が回っていない畑を3箇所ほど一任され、全て開墾。その広さは、合計約1ヘクタールにも及びます。
先代はぶどうや米も栽培していましたが、気候や土壌などの事情から、犬飼さんはりんごに特化。今ではこの広い畑で、独自に積んだ知見を活かしながら、りんごを栽培しています。
「自然界の力を活かし、極力安全な方法で」
犬飼農園のりんごは「高密植わい化栽培」と呼ばれる、トレリス(果樹棚)を用いて樹間を短くし、樹を垣根のように連ねた状態にする方法で栽培されています。こうすることで、日光が満遍なく当たるようになり、病気対策などのメンテナンスがしやすくなるといいます。また、早期多収できるという利点もあります。
りんごの樹の下には藁が敷かれていました。これは犬飼さんが当初から続けている、化学肥料や農薬を極力使わないようにする工夫のひとつです。
「藁を敷くことで雑草が生えないようにしています。また、土の保温にもなりますし、のちにこれが分解して肥料になるなど、いろいろな役割があります」。藁は、近くの田園地帯で不要になったものを使っています。
木酢を活用するのも犬飼さんならでは。手作りした木酢液を1000倍に薄め、りんごの葉を中心に散布します。そうすることで葉の表面の微生物を活性化させ、その力で外的な病源微生物を防ぎます。「人間に置き換えて言えば、免疫力を高めている状態です」。木酢液は、土に落ちても土中の微生物を活性化し、豊かな土壌を作ります。「土壌の状態が良くなると、りんごの味も美味しく変わっていくんです」。
また、木酢の火や煙を連想させる匂いには、害虫などが寄り付かなくなるという効果も。自然のものを活用することで、農薬使用量も極限に抑えられるのだと話します。
予防は万全に。細やかな手間を惜しまない
りんごを収穫・出荷するのは、品種により8月から1月にかけて。収穫を終えてから春までのあいだは剪定を行いながら、のちに肥料となる藁を撒いていきます。5月ごろに花が咲いたら、間引き(摘果)作業を。その後も、実の色付きを良くするためにりんごを回す「玉回し」や、太陽の陽を遮る葉を取り除く摘葉など、細かい作業が続きます。
梅雨明けになると、以前は不要だった日除けネットを張る作業を行います。「地球温暖化の影響で、以前に比べて日差しが強くなりました。5年くらい前からネットを張っています。ここ3年ほどは、とても暑さを感じますね。7月の時点で汗をかいて作業することなんて、本当はなかったんですけどね」。と犬飼さん。スプリンクラーを用いた灌水も行います。
犬飼さんのりんごへの向き合い方を聞いていると、その細かな気遣いや手入れの積み重ねが、おいしいりんごを生み出すのだとわかります。りんごの木が不健康にならないよう常に気を配り、時には労力をかけて病気を予防したりと、その取り組みは多岐にわたります。
例えば、植え替え。りんごは根詰まりを防ぎ、通気を良くするために2〜3年に一度は植え替えをするのが通例ですが、犬飼さんは畑全体の植え替えを、毎年少しずつ行っています。手間がかかり、根気を要する作業になりますが、りんごの木の健康を守る観点で考えれば予防するに越したことがないそうです。
今回私たちがお邪魔した畑は、当初はりんごの出来がそこまで良くなかったと犬飼さんは話します。「他の畑と同じように手をかけているのに、どうしてここだけいまいちなんだろうと疑問でした」。そして観察・検証を続けて分かったのは、春先の風が強く、目に見えないほど細かい砂埃や砂利がりんごに傷をつけているということでした。
「それで、風よけのためのネットを張り始めたんです。そうするとりんごの傷も防げるようになりましたし、畑の温度が2〜3度ほど上がって、りんごの実が大きく育ちやすくなったように感じます」。そして、農業は身体的な負担が大きく大変に感じることも多いが、こうして試行錯誤を重ねて良いりんごを作れるようになることが何よりのやりがいだと話してくれました。
おわりに
「Why Juice?さんはいつもこうして畑まで足を運んでくれますし、流通に出すことができないりんごを使ってくださるので本当に助かっています」。訪れるたびに私たちに学びをもたらす犬飼さんのりんご畑。次のシーズンもその様子をお伝えしていきたいと思います。